メリーロジスティクスが初開催したポップアップストアにも参加してくださった、京都生まれのイラストレーター・さわともかさん。カラフルな色使いとユーモアあふれる作風で「物流」を魅力的に表現してくださいました。

Instagramでも精力的に作品を発表しているさわさんですが、その人生を振り返ってみると、決して順風満帆ではなかったそう。数年間にわたり悩み続け、自分自身をがんじがらめにしてしまい、絵を描くこと自体に難しさを感じていた時期もあったと言います。さわさんはどうやってコンプレックスから抜け出し、自分らしさを取り戻したのでしょうか。

ポップアップに参加したことで変わった「物流」への印象について、そして、さわさんがこれまで歩んだ道のりについてお話を伺いました。

人と関わることで、新しい自分を見つけられる

―さわさんの作品は、ポップな色使いであたたかみもありつつ、ちょっとクスッとなるようなユーモアもあふれています。どういったところから着想を得ているんですか?

さわ:本当に何気ない日常からですね。描くときに意識していることは、線を少なめに描くことと、説明的になりすぎないこと。情報量を少なくして余白をつくることで、見た人も何か感じてくれるものがあるんじゃないかなと思って。描き込みすぎたら「ここはなくても成立するかも」って消すこともあるし、表現の可能性を楽しみながらどんどん攻めるようにしています。

 

―今回のメリーロジスティクスとのコラボは、自分の作品を描くのとは異なる、ある意味チャレンジでもあったかと思うのですが、実際にやってみていかがでしたか?

さわ:「物流」という言葉自体はもちろん前から知っていたし、私自身、工場でライン作業のバイトをしたことがあったけど、当たり前すぎてそこにフォーカスして考えることがなかったんです。だから、最初に声をかけていただいたときは参加するか迷いました。でも、規模が大きいから気づきにくいだけで、人に物を渡したりもらったりするように、日常の中に小さな規模での「物流」はあるはず。それを作品のテーマとして考えると面白そうだなと思ったので、やってみることにしました。

―プレゼントを持った犬や花束を抱えた人など、物流といえば思いつく工場の情景以外のシーンも描かれていますね。

さわ:人の流れと、自分の中の物流へのイメージが重なったんです。贈り物とか、気持ちを伝えることとか、人の流れを描くだけで物流を表現できるかもしれないなって。それって人がずっと昔からやってきていることだし、人は絶対にそこから離れることができないですよね。

最初は工場の現場の人を描こうと思ってたけど、どうせなら自分の色を出せたらありがたいなと思いました。自分がイメージしていた物流とか、今までの作品の雰囲気ともなじむものを描きたかったから、せっかくのコラボならそっちかなと。

 

ラフ絵を見せてもらうと、さまざまなモチーフが描かれていた

「好き」を大切に、ここまで描いてきた

―ここからは、さわさんご自身のこともお伺いできたらと思います。小さい頃からイラストを描くことが好きだったんですか?

さわ:小さな頃から絵を描くことはずっと好きなことでした。運動が得意じゃなかったので、小学校の休み時間でも教室で過ごすことが多かったし、図工の授業も好きでした。

―大学でも美術系の学校に進学されましたよね。

さわ:中高一貫の学校に通ってたので、そのまま付属の大学に入る選択肢もあったんですけど、自分の興味のある芸術系の学部がなかったんです。専門学校も考えたけど、高校の先生の勧めもあって、別の美術系の大学に進むことにしました。当時はデザインとイラストの分野の違いもわかってなかったし、将来仕事にしたいという気持ちもなかったんですけど、なんとなく「大学行ったほうがいいんかな?」と思って……。

―入学後は、絵を専攻されてたんですか?

さわ:入学して2年生までは版画を専攻して、そのあと3年生からは油絵のほうに転科しました。

―版画なんですね! 絵ではなくそちらに向かったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

さわ:アンディ・ウォーホル(アメリカの芸術家、版画家。ポップアートの旗手と呼ばれ、カラフルで鮮やかな作風が特徴)のシルクスクリーンの作品を初めて見たときに、版画のイメージががらっと変わったんです。木版の渋いイメージを持ってたから、シルクスクリーンとの出会いは衝撃的で、面白そうだな、やってみたいなと思いました。

でも、版画って刷る時間よりもその前の工程にかける時間が多いんです。版画自体は楽しかったけど、「掃除の時間長いのしんどいな」って気持ちがあって……(笑)。気が散ってしまったし、版をつくる時間は創造とは別のベクトルの作業のように思えてしまったので、自分の性に合ってなかったんだと思います。もっとダイレクトに作品に向き合いたくなったから、シンプルに紙と鉛筆で作品をつくれる油絵科に方向転換しました。

​​コンプレックスが強みになるまで、悩み続けた数年

―大学で学ばれた4,5年後、2020年にイラストレーターとして活動開始されたとのことですが、それまではどんなふうに過ごしていたんですか?

さわ:その間も自宅の一部をアトリエにして、ずっと絵を描いてました。ただ、今とはまったく違う作風だったし、展示は何度か開いたけど、お仕事の依頼をいただいた経験はなくて。じつは、ずっとイラストレーターにはなりたくないと思ってたんです。作家として作品を発表して、それで生計を立てていきたいと考えていました。

―絵を描いていく中で、どういった気持ちの変化があったんでしょうか?

さわ:描き続けてはいたけれど、ずっと「この絵を描くのは自分じゃなくてもいいよな」という思いを抱えていました。他の人の絵を見ては羨ましくなり、その憧れや妬みを創作意欲に変えてはいたけど、どうしても他の人の作風を意識しすぎて自分を見失ってしまって……。実際に描き上げても、自分の絵に対して全然「いいな」って思えなかったんです。

私は大学で一切デッサンを勉強してこなかったから、人の身体の動きを描くことに苦手意識があったんです。でも、ある日突然「描けないのが自分の持ち味なのかも」と思うようになって。プロの人たちの中でやっていくならできないことも価値になりうるんだから、ないものねだりみたいに他人の真似をしたり、無理に手癖をセーブしなくてもいいかもしれない。きっとそれまでは、考えすぎてがんじがらめだったんですよね。苦しくて1年くらい描けなくなった時期もあったんですけど、自分のできないことも癖も全部受け入れたら、自然と手が動くようになりました。

―コンプレックスを自分の強みに変化できたんですね。そこから、現在のようにInstagramなどで作品も発表されるようになったんですか?

さわ:作品の発表というところでも、最初はわかる人がわかってくれたらいい!と思っていました。でも、だんだんと「もっといろんな人と関わりたい」「もっと自分の作品を見てほしい」という願いが生まれてきたんです。自分が得意な絵を通して、いろんな人に喜んでもらえるならすごく幸せだなって。

―さわさんがずっと大切にしてきた、「好き」という感情に、ある意味原点回帰したというか。それまで悩んでいたぶん、作品を世の中に発表していくことに恐怖はありませんでしたか?

さわ:最初は怖かったですね。3、4年間ずっと悩み続けていたし、SNSで作品を発表していくこと自体に抵抗がありました。でも、自分がいいって思うものを、自分がいいって思うだけじゃなくて人と共有できたら嬉しいし、それ以上に嬉しいことってないのかなって。シェアハピっていうんですかね(笑)。考えすぎて苦しい時期があったからこそ、自分が動かなかったら何も生まれないと思えました。好きなものが好きかどうかわからなくなってしまうのは怖いことだから、またそうならないように、自分のペースをちゃんと知ること、それを守りながら活動することを大事にしています。

ー今後は、イラストレーターとしてどのような活動されてきたいですか?

さわ:もっといろんな人に自分の作品を知ってもらいたいし、どんどん人と関わって作品をつくっていきたいです。誰かと一緒にものづくりをすると、「自分だけだったら絶対こうはならなかったな」という仕上がりになるし、自分自身の新しい発見にもつながります。

以前までは自分らしさを全面に出したいという気持ちがあったけど、今はそれよりも「いいものをつくる」ことにこだわっていきたいです。自分ひとりの力ですべて作り上げることがいいと思ってた時期もありましたが、みんなで得意分野を分担して作り上げていくのもいいなって。そのほうが絶対、いいものをつくれるはずだって信じています。

 

Editor / Writer: Moe Ishizawa
Photographer:Asuka Sasaki

インフォメーション

さわともか

1994年生まれ、京都府出身。イラストレーターとして2020年より活動開始。

第216回ザ・チョイス準入選作家。仕事の側で制作するZINEにはアジアを中心とした海外ファンも多く、韓国や台湾の書店で取り扱われている。

Instagram:@sawa_tomoka / 作品販売サイト