「日常に、深呼吸を届ける」というミッションを掲げ、湯治文化が根付いた大分県別府市から「湯治」というライフスタイルを伝えるHAA。
その名の通り「は〜」と深呼吸できる時間と、そこから生まれる心の余白を届けるために、温泉の結晶「別府湯の花」を原料とした入浴剤「HAA for bath」を展開しています。ブランドの皮切りとなったクラウドファンディングでは目標金額の7倍近くのサポートを集め、その後も順調に事業規模を拡大し続けているHAAですが、その華々しさの裏では物流の課題に直面。夜も眠れなくなるほど、悩みを抱えたこともあったそうです。

今回は、HAA代表の池田佳乃子さん、そして池田さんの実妹であり、HAAのメンバーでもある平岡季里子さんをお招きしてインタビューを実施。HAAの物流面を支えたCAPES代表・西尾浩紀も交えながら、お二人のこれまでの「珍道中」や、ブランドとしての物流へのこだわりについて伺いました。

左から:西尾浩紀、池田佳乃子さん、平岡季里子さん

 

 何もわからないまま進んできた、姉妹二人の「珍道中」

―はじめに、HAAを立ち上げたきっかけを教えてください。

池田:私は大学進学を機に地元・大分県別府市から上京して、2018年頃までずっと東京で暮らしていました。その当時は本当に忙しく、コーヒーを淹れたり、アロマキャンドルを焚いたり、とにかく能動的に時間をつくらないと深呼吸することすらできなかったんです。

でも、2018年から大分と東京の2拠点生活を始め、ご縁があって別府市の鉄輪温泉という温泉街に身を置くようになってからは、普通に暮らしているだけで自然と深呼吸できていると気づいて。特別に何かをしなくても、湯煙を見たり、100円の温泉に浸かったりするだけで「は〜」と一息つけるんです。この「は〜」という瞬間を日常の中に増やしていくことで、心の余白を生む助けになりたい。そう思って、2021年7月にブランドを立ち上げました。

 

2年ほど経った中で、深呼吸する大切さを届けられている実感はありますか?

池田:「HAA for bath」がギフト用パッケージになっている理由は、普段なかなか深呼吸できない人にこそ「は〜」という時間を味わってほしいからなんです。過去の自分のように、心身ともにパツパツになってしまっている人に届けたくても、その人自身は「ゆっくり休みたい」と思う余裕がなく、私たちのプロダクトに触れる機会すらないと思うんですよ。でも、ギフトという形であれば、心に余白がある人がHAAの商品を知り、それを必要とする人に届けてくれるかもしれない。そして、優しさを受け取った人がまた別の誰かに深呼吸を届けてくれて、「優しさの連鎖」が広がっていくんじゃないかと思ったんです。実際に、お客様から「仲のいい友人がペットを亡くして悲しんでいたときに、HAAの商品を贈ったら喜んでくれた」というお声をいただいたこともあって、その広がりを実感しています。

「HAA for bath 日々」(公式サイトはこちら

 

―お二人はどんなふうに業務上で役割分担されているのでしょうか?

池田:今、HAAは業務委託のメンバーを合わせて10名ほどの規模で動いています。私は代表としてブランド全体を見ていて、平岡は主に生産管理を担当しています。

平岡:とはいえスタートアップ企業なので、生産管理以外にも毎日の受発注やお客様やお取引先とのやり取り、商品の企画開発など、商品に関わることはほとんど全部行っています。

池田:立ち上げたばかりの頃は全部私ひとりでやってたんですよ。でも、2022年1月に商品を発売してからたくさんの注文をいただくようになり、キャパオーバーしちゃって……。たまたま実家に帰ったときに、妹に「もう私だけじゃ無理やわ。手伝ってよ」ってお願いしたんです。そしたらその1ヶ月後くらいに会社を辞めて、ジョインしてくれて。

平岡:スタートアップって本当に大変なんだなと思いました。今でも毎日「大変だね〜」って言ってます(笑)。

池田:私自身、スタートアップとして働くのは初めてのことだったので、まさに「姉妹二人の珍道中」って感じで。知らないことばかりの中で、自分たちがしてもらったら嬉しいこと、逆にされたら嫌なことを基準にしながら、どうにかこうにかやってきました。

パートナーとの出会い、それでも超えられない物流の壁

―物流のお話もお伺いさせてください。お仕事として物流に携わるのも初めてのご経験だったと思うのですが、最初は何から始めていきましたか?

池田:物流についても何も知らなかったのですが、いずれ誰かにお願いするとしてもまずは自分でやってみようということで、最初のクラウドファンディングの商品発送はひとりで行いました。10日間かけて、ダンボール600箱分の商品を梱包して、運送業者さんとやりとりして……それがものすごく大変で。絶対に誰かにお願いしたほうがいいなと思ったので、友人のツテをたどりながら、並行してパートナーシップを結んでくれる物流会社を探し始めました。 

 

―いいパートナー企業と巡り会えましたか?

池田:はい!仙台の物流会社さんなんですけど、右も左もわからない私たちに対してすごく丁寧に接してくださって。どれだけの物量になるかもわからない、つまり、お相手にとってはどれだけの儲けになるかもわからないのに、二つ返事で「いいですよ」と言ってくれたんです。

平岡:契約を結んでからは姉から私にバトンタッチしてやり取りをしていたんですけど、ダンボールのサイズから梱包方法まで物流の基礎を教えてくださって、すごく助けてもらいました。

―素敵な出会いがありながらも、きっと順風満帆ではなかったと思います。どんな壁にぶつかってきましたか?

池田:商品をほしいと言ってくれるお客様はたくさんいるのに在庫がなくなってしまうという、需給バランスの崩れが大きな問題でした。一度テレビ番組で「HAA for bath」を紹介してもらったことがあるんですけど、ありがたいことにそこから注文が殺到して……。

平岡:私たちの商品は、入浴剤に包み紙を巻いたり箱を組み立てたり、ひとつひとつ手作業でやっているので流通加工のステップが必要なんです。すごく手間と時間がかかるものなので、注文数に対してその作業がまったく追いつかず、在庫がなくなってしまって。

池田:でも、仙台の物流倉庫さんは「今がチャンスなので、お客様からの注文は全部受けてください。お客様をお待たせしないように必ずつくるので」と言ってくださったんです。その優しさと、HAAを応援してくれる姿勢にすごく感動して、まさに「は〜」と深呼吸できました。

―頑張ってくれた結果、在庫問題は解決したのでしょうか?

平岡:一瞬だけ。ただ、それ以降ずっと在庫が足りない状態が続いて、「どうしよう」と夜も眠れなくなりました。お客様をお待たせしているし、卸先の店舗からの注文も断らなくちゃいけないのが申し訳なかったです。

池田:仙台の物流会社さんは丁寧で細やかで、間違いなく素晴らしいパートナーだったんですけど、これは次のステージにいくタイミングなのかもしれないと感じました。そこで物流についての相談相手を探しているうちに、CAPESさんを知ったんですよ。

西尾:発酵デパートメントの小倉ヒラクさんとの対談記事を読んで連絡してくださったんです。「今すごく困ってます」とのことだったので、オンラインミーティングさせてもらったのが始まりでした。

 

梱包に想いを乗せてくれる、移転先を探して

―どのようなプロセスで問題解決を目指していったのでしょうか。

西尾:まずは、HAAが抱えている問題が突発的なものなのか、それとも慢性的なものなのか把握するために、直近の販売実績や在庫数を確認させてもらいました。その上で、仙台の物流倉庫を始めとした作業拠点を実際に見に行ってみたんですけど、やはり物理的にも作業量的にもキャパオーバーしていて。僕から見ても素敵な物流会社さんだったので大変心苦しかったのですが、熟慮の末、お別れして移転しようという結論に至りました。

池田:状況整理の仕方が完全に物流のプロで、本当に助かりました。それに、私たちは仙台の会社さんが大好きだったのでできればお別れしたくなかったんです。その気持ちに寄り添ってくれて、移転以外の方法を一緒に探ってくれたことも心強かったです。

西尾:移転を決めてからは、お二人に対して「物流の軸」をヒアリングさせてもらって。コストが安ければいいのか、値段よりもパートナーとしていい関係性を築いていきたいのか……企業によっていろいろあると思うのですが、HAAは信頼感や、これから一緒に成長していける関係性を大切にしたいということだったので、そこを満たしてくれそうな候補をいくつかピックアップしていったんです。その後、複数社から見積もりとご提案をいただき、時には一緒に見学に行きながら新たな委託先を決めていきました。

 

―移転先の物流会社さんは、どんな決め手で選ばれたんですか?

池田:キャパシティや作業量などの条件をクリアしていたのはもちろん、 物流倉庫のセンター長さんがすごく信頼できたことが大きいです。丁寧に対応してくれる営業担当の方、几帳面に出荷作業してくれる物流担当の方など、HAAの物流に関わってくれるすべての人をご紹介いただけて安心できました。やっぱり人間性ですね。

私は、配送業者さんから受け取って箱を開けるそのときこそが、お客様にとって一番わくわくする瞬間だと思うんです。そこをかなり重視してるから倉庫まで全部見に行くし、どういう人が実際に梱包作業にあたってくれるのかも知りたかった。物流担当の方にも「自分がギフトを受け取るときを想像して、想いを乗せてください」とお伝えしました。

平岡:最終的にお願いしたところ以外にも、いろんな物流倉庫を見学させてもらったのが本当に勉強になりました。それまでは前の物流倉庫のやり方しか知らなかったから、目からウロコなことがたくさんあって。物流の知識自体もかなり増えたので、物流会社さんとよりコミュニケーションしやすくなったと思います。

物流は心臓。すべてのボトルネックになっていた

―移転されてから、事業の成長も感じられるようになりましたか?

池田:在庫数が潤沢になって、商品を販売できるようになりました! それが本当に嬉しい。

平岡:ずっと在庫切れだったので「売る」ことができなかったんですよ。他のチームが「こういうPRはどう?」って言ってくれても、私が「在庫ないからだめです!」ってストップをかけていて。でも、ようやくマーケティングやセールス活動といった外部への発信が許されるようになったし、私自身、生産管理の仕事がすごく楽しくなりました。なんの心配もないから夜もぐっすりです!(笑)

池田:「発注、これだけしてもいいよね!」みたいな。経営的には、移転後にデータ管理を始めたのでよりデータドリブンになって、今後の事業性を考えやすくなりました。採用活動も積極的に進めています。

 

―事業としてのボトルネックが物流だったんですね。

池田:まさにそうです! 事業内容も改善されたし、気持ちの上での余裕も生まれて、長い目で「あれもできそう、これもできそう」というふうに考えられるようになりました。長かったなあ……1年ぐらいかかったよね。

平岡:私たちのようなブランドにとって、物流は心臓なんだってことを痛感しました。物流が止まると何にもできなくなっちゃう。

 

―今後、チャレンジしたいことはありますか?

池田:日常の中で深呼吸してもらうシーンを、もっと増やしたいなと思っています。今は入浴シーンだけなんですけど、また違うタイミングに「は〜」ってしてもらえるプロダクトを作っていきたいので、きりちゃんが目下計画中です。

平岡:生産管理がちょっと落ち着いたから!ってね。商品の企画開発も私の役割なんです。

 

―西尾さんはどんなふうにHAAと関わっていきたいと考えていますか?

西尾:販売量や商品ラインナップが増えていくことで、「お届けの仕方を工夫したい」「物流のコストを圧縮させたい」といった別の課題が生じる可能性もあると思うんです。そういうときにはぜひ一緒に解決できればなと思いますし、HAAのいちファンとして、僕にできることがあれば全力で協力したいですね。

 

インタビュー・執筆・編集:石澤萌(sou)
撮影:前田立

インフォメーション

池田佳乃子(いけだ かのこ)

株式会社HAA 代表取締役。1988年⽣まれ、⼤分県別府市出⾝。2010年⻘⼭学院⼤学卒業後、映画会社、広告代理店を経て、2018年より別府にある湯治場「鉄輪温泉」でプランナーとして活動を始め、2021年に株式会社HAAを設⽴。「⽇常に、深呼吸を届ける」をミッションにライフスタイルブランドHAAを立ち上げる。別府と東京の2拠点⽣活6年⽬。温泉が⼤好き。
Twitter:@ikekano_ / Instagram:ikekano_


平岡季里子(ひらおか きりこ)

1990年生まれ、大分県別府市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。株式会社HAAの生産管理と商品企画開発を主に担当。好きなことは温泉とゲーム。