地球温暖化や海洋汚染、森林破壊……今、世界中で環境問題の深刻化が問題視されています。日本では「2050年カーボンニュートラル」や将来的な海洋汚染ゼロの目標達成に向け、2022年4月に「プラスチック資源循環促進法」が執行されました。

「“美”しい地球を、次の世“代”へ」をミッションとするブランドMiYO ORGANICは、いち早くプラスチックの地球環境への影響に注目。竹歯ブラシをはじめ地球環境に配慮した上質で心地良いアイテムを提供しています。脱プラスチックの観点から、さまざまな有名ホテルのアメニティとしても採用され、販路が拡大していく一方で、ロジスティクスの環境が整っていないことが大きな課題となっていました。そこで物流部門を支援することになったのがCAPESです。

今回は、MiYO ORGANIC代表の山本美代さんとCAPES代表の西尾浩紀が、2社の関係性やサステナブルという観点から考える物流について語り合いました。

山本美代さん、西尾浩紀

ホテルアメニティの気づきから生まれた、環境にやさしい竹歯ブラシ

―まず、山本さんがMiYO ORGANICを立ち上げた経緯について教えてください。

山本:ブランドを始めた2018年当時、日本では「エコってなんだろう?」という人が多かった一方で、海外では「地球環境が、かなりヤバいことになっている」という危機感が個人に浸透していて、みんな何かしらアクションをしている状況でした。海外の友人からそうした話を聞く機会も多く、その意識の差を感じていたんです。私の家業はプラスチックの使い捨てカップやストローなどを製造販売しているのですが、環境問題が気になり出してからは、家の仕事を手伝うことにもだんだん気が引けるようになってきて……。

そんなある日、出張先のホテルで歯磨きをしていたときに「この歯ブラシって、今日の夜と翌朝に使ったら捨ててしまうんだ」ということにふと気づいたんです。そのホテルは客室が300室ぐらいあったので、ひとり1室で単純計算しても1日300本のプラスチック歯ブラシがゴミになっている。それに気づいてしまった以上、なんとかしなくてはならないと感じて、竹歯ブラシを主力製品に、環境にやさしいアメニティグッズのブランドを始めたんです。

MiYO ORGANICの竹歯ブラシと、オーガニック竹ヘアコーム

 

―「竹」を使って歯ブラシを作ろうと考えたのはなぜだったのでしょうか?

山本:環境に配慮したアメニティにはどんなものがあるのか、オランダやベルギー、フランスなど環境先進国でのリサーチの中で、竹に出会いました。竹は、世界で一番成長が速い植物であり、枯渇する心配がない循環型資源だと言われています。成長する際にはCO2を吸ってくれ、土にも還るし、日本人にとっては馴染み深い素材でもある。また、金型を作る必要のあるプラスチックと比較してコストも抑えられます。そして何より見た目がかわいい。まさに竹はメリットだらけだったんです。

 

―そうして生まれたMiYO ORGANICの竹歯ブラシは、2020年5月の発売以降、販売数が150万本以上を突破しています。主な販路はホテルだそうですね。

山本:そもそもホテルアメニティの気づきからこのブランドが始まったことと、これまで私は食器ソムリエとして仕事をしていたので、大手ホテルとのつながりもあったんです。ただ、いくつかのホテルに持って行っても、好反応ではあるものの、アメニティとしてはコストがネックだと言われてしまって。潮目が大きく変わったのは、「プラスチック循環促進法案」が執行された2022年4月。環境に配慮したアメニティを取り入れることが、企業としてのブランディングにもつながるようになり、それからは販路も徐々に拡大していきました。

 

何がどこにあるのかがわからない。アナログな物流がもたらす課題

―スタートしたばかりの会社で、対応が大変だった部分もあるのではないでしょうか?

山本:世界最大級のホテルグループとのお仕事が決まったときは、嬉しい反面不安もありました。これまではハードルを超えるというよりなぎ倒しながら走り続けていたようなところがあったので、アナログだった在庫管理や、受発注、配送などあらゆる課題が山積み状態だったのです。どうすればいいのかわからず頭を抱えていたところ、知人から「物流のプロ」として、西尾さんをご紹介いただきました。

西尾:最初にお話を聞いたときは「竹」に縁を感じました。かつては日本で重宝されていた竹ですが、安い輸入品やプラスチック資源が出回るようになると需要が激減し、今は各地で「放置竹林」が社会問題になっているんです。僕は地方自自治体から相談を受け、2013年から2年間ほど、竹をチップにしてバイオマス燃料を作る事業に携わっていたことがあって。だからMiYO ORGANICの竹歯ブラシを見て、邪魔者扱いされていた竹がこうして新しい価値として広がっていくことに面白さを感じましたし、すごく魅力的なプロダクトだと思いました。

―山本さんからご相談を受けて、西尾さんがまず課題だと感じたのはどんなことでしたか?

山本:一通り西尾さんに状況を説明したあとの第一声は、「これはややこしいですね」でしたよね(笑)。

西尾:物を届けるプロセスはシンプルであることが理想なのですが、MiYO ORGANICの特徴のひとつに、商流が複雑だということがあったんです。まずは国内外から入ってくる原材料を一時保管。そのあとに製造する場所へ送り、さらにでき上がった商品の保管場所や発送場所へ移動させる必要がある。さらに販路もホテルやドラッグストア、オンラインストアなどさまざまです。つまり、お客さんの手元に商品が届くまでに介在するプレーヤーがかなり多い。そのために、今何がどこにあるのかが把握しづらく、注文が入ったときに、速やかに対応できないことが一番の課題だと感じました。都度、それぞれの担当者に電話して数を確認されている状況だったので、製造・在庫管理システムを導入することで、手間の掛かっている作業をなくすとともに、正確な情報を把握していく必要があると判断しました。

山本:まさに今、オンゴーイングで取り組んでいるところではありますが、在庫管理のクラウドシステムを導入するために、まず仕入れ先に何が何個あるのかを確認してもらい、精緻な数字を出すことから始めました。当初は、目標に合わせて西尾さんがTODOリストも作ってくださって、ベースができるまで一個一個一緒に取り組んでくださいましたよね。

西尾さんはその多面的なご経験の中から、物流の面だけではない課題をちゃんと抽出してくれるんです。「まずはこういう原因があるから、ここから解決しましょう」とか、「いきなりここを目指すのは、ちょっとジャンプアップしすぎだから、まずはここから整理していきませんか」という感じで、一つひとつ課題解決への道筋を提案してくださるのがありがたいです。

物流業界とサステナブルの関係。意識を変えるために何が必要?

―MiYO ORGANICのように、環境配慮を考える企業だからこそ、物流でこだわっている点や注意していることがあれば教えてください。

山本:お客様のお手元に届けるまでの過程も大切にしたいという思いがあります。MiYO ORGANICでは、梱包はできるだけ最小限にし、緩衝材や包装にもプラスチックは使わず、環境に配慮した素材を採用しています。もうひとつ、物流に「おもてなし」を持たせたいとも考えていて。私たちの取引先でもあるザ・リッツ・カールトンは、ホスピタリティの代名詞ともいわれるホテルです。そうしたところに商品を納品させていただくにあたり、MiYO ORGANICとしてもホスピタリティを意識しています。

西尾:今の世の中、お客様の希望する日時にしっかり商品をお届けするのは当たり前なので、ホスピタリティを考えるならば、その一歩先に行きたいと一緒にディスカッションしたんです。梱包材や包装材を環境に配慮したものを使うこともそのひとつでしょうし、今後、できるだけCO2を削減する輸送方法を考えることも課題になりそうですね。

山本:西尾さんと議論していると、本当にワクワクするんです。物流の話をしているのに、それがブランドのビジョンにもちゃんとつながっている。今は物流体制をしっかり構築していくことが第一優先ではありますが、その次のフェーズとして、輸送においてC02の削減をどう実現するのか、一緒に模索できたらと考えています。

―サステナブルの視点から考えたとき、物流業界にはどんな課題があるでしょうか?

西尾:やはり大きいのは、輸送によるCO2排出の問題。プラスチック製の緩衝材や梱包材なども環境配慮の面から問題視されています。とはいえ、物流業界も何も手付かず状態というわけではなく、逆に何もケアをしていない会社は取引の対象とされなくなりつつあります。まだまだ普及率が高いとは言えないですが、大手企業では物流センターに再生可能エネルギーを導入したり、宅配用の車両にEVを導入したりと、「グリーン物流」に力を入れるところも増えています。

また最近は、緩衝材メーカーもさまざまな取り組みを行なっています。例えば「プチプチ」を作る川上産業では、学校や自治体などに回収ボックスを設置し、使用済みの資材を回収する「プチプチリサイクルプロジェクト」を2021年に開始したそうです。

 

―物流業界でもずいぶん意識が変わってきているのですね。

西尾:これは物流業界に限った話ではないと思うのですが、「便利」に慣れすぎてしまった僕ら人間の感覚を変えていくべき時が来ていると感じています。物流で言えば、送料無料や翌日配送などのサービスが当たり前になったことで、どこかに無理が生じて、人や資源が枯渇するという問題が出ている。生活面でもプラスチックという安くて便利なものが出回ったことで、今、マイクロプラスチックや環境ホルモンなどの問題が深刻になってきている。これからは進化しつつも人間らしさを取り戻すマインドが大切ですし、この竹歯ブラシのようなプロダクトがまさにそれを体現している気がするんです。

そのためにも「ラストワンマイル」という言い方を変えていかなきゃと、僕はずっと思っているんです。これまでの物流では「効率よくミスなく、お客様に届ける」ということを重要視してきましたが、これからは届けたら終わり、という直線的な物流ではなく、円を描くような「循環する物流」へとアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。MiYO ORGANICさんとお仕事するようになり、僕自身、サステナビリティに関して意識が変化しているのを感じます。この新たな視点を持って、改めて物流業界の課題と向き合っていきたいですね。

CAPESと伴走しながら、お客様にも地球にもやさしい仕組み作りを

―MiYO ORGANICの今後の展望について教えてください。

山本:今、事業の柱としては3つあり、ひとつは竹歯ブラシなどの環境配慮型のアメニティの製造販売。2つ目は、サステナブル商品の輸出入事業。そして、今後さらに力を入れたいのが、3つ目のアップサイクル事業です。こうした環境配慮型のアメニティも、結局は消耗品なので、いずれはゴミになってしまいます。そこで、MiYO ORGANICでは、取引先のホテルや企業と協力して、廃棄される竹アメニティやプラスチックを回収し、新たなアメニティに生まれ変わらせる仕組みを作りました。今ある資源を可能な限り長く活用し、廃棄を減らしていくサーキュラーエコノミー(循環経済)は、まさに理想のビジネスモデル。今後一層力を入れて取り組んでいきたいところです。

 

―CAPESとの取り組みにより、より挑戦しやすくなった部分もあるでしょうか。

山本:今後ますます販路が拡大していく中で、まずは物流の環境を整えなければ先に進むことはできなかったと感じます。今、MiYO ORGANICが掲げている物流のコンセプト「ホスピタリティ・ディストリビューション」や「サステナビリティ」という目標は、1ヶ月後に達成できます! というものではありません。でも、こうして時間をかけながらでも伴走してくださるCAPESさんのおかげでブランドのビジョンに一歩ずつでも近づいていると感じます。きっとこれからも新たな課題が増えていくでしょうが、アイデアを出しながら、より良いものを作っていくこと、お客さまにとっても地球にとってもいい仕組みを考えていくことができたらいいなと思っています。

西尾:仕事の対価として、僕が何より嬉しいのは、泊まったホテルにMiYO ORGANICがあること。今後導入しているところがどんどん増えて、泊まる先々でMiYO ORGANICに出会えるような、そんな未来を一緒に作っていけたらいいですね。

インタビュー・執筆:秦レンナ
編集:石澤萌(sou)
撮影:有坂政晴

インフォメーション

山本美代(やまもと みよ)

株式会社ミヨオーガニック 代表 / 一般社団法人食器ソムリエ協会 代表理事。3Mデンタル事業部、ウェディングコーディネーター、シンガポール食器ブランドプロデューサーを経て、食器コーディネート事業「DINING+」を立ち上げる。2020年に一般社団法人 食器ソムリエ協会を設立し、飲食店のための器の知識と経験を元にした「食器ソムリエ講座」を開講。2020年よりサステイナブルブランド「MiYO ORGANIC」を立上げ、地球環境に優しく、上質で使い心地の良い竹歯ブラシなどを手がけている。

2022年 グッドデザイン賞 受賞
2022年 crQlr Awards受賞

https://miyo-organic.com/