物流現場にデザインが必要な理由とは?

物流現場を思い浮かべてみてください。無機質な空間に統一感のない掲示物やサインが散在していないでしょうか。物流現場はとにかく機能やコスト重視。社員の居心地やモチベーションアップが考えられた現場がたくさんある、とはまだまだ言えない実情があります。

そんな現場環境に対してCAPESが考えているのは、物流領域にデザインを持ち込めないかということ。たとえば、物流センターの大きな壁面にペイントをしたり、バスのラッピングをしたり、オリジナルの庫内サインを掲示したり……「デザイン性の高い空間を作り出すことで、働く人たちが『こんな素敵な場所で働いているんだ』と胸を張れる現場になったらいいなと思っています」と語るのはCAPES代表・西尾。今回、デザイナーとタッグを組み、初めて庫内サインというかたちでその思いを具現化し、ジュピターショップチャンネルが立ち上げた新物流センター内に設置しました。

ジュピターショップチャンネル物流センター内の庫内サイン

西尾:以前、私が責任者をしていた現場にスタッフが500人くらいいて、「どんな職場で働きたいですか?」と聞いたことがあったのです。多くの人が「無印良品みたいな空間がいい」と言っていて。現在の物流現場からは対極にある空間ですが、居心地がいいことはもちろん、そこにいる自分が素敵だと思える場所を望んでいるのだろうなと思い、その会話がずっと心に残っていました。

人材不足によって、働き手が働く場所を選ぶ時代となった物流業界。売り手市場の今、デザインによって従業員への配慮が見られ、働きやすい環境づくりをしているというアピールをしない手はないと考え、2022年4月に新たな物流センターの立ち上げを完了したジュピターショップチャンネルに庫内サインのデザインを提案。物流センター立ち上げ及び庫内サイン導入を担当したジュピターショップチャンネルの武井純さんは、物流×デザインという構想を聞き、「正直、最初は全然ピンときていなかったです」と振り返ります。

武井:従来の物流現場のサインは、端的に場所を示し、意味がわかれば良いとされるものです。そもそもコスト重視の業界なのでデザインにコストをかける発想がありません。つまり、今の現場にデザイン性はまったくない。そこにあえてデザイン要素を取り入れること自体が新鮮でした。スタッフが定着しない中で、同じ時給で働くのであれば、格好の良い環境のほうが好まれるはずです。そのような場所を提供できたらと思い、導入を決めました。

左からジュピターショップチャンネル株式会社の武井純さん、CAPES西尾浩紀

 

ジュピターショップチャンネルオリジナルの庫内サインができるまで

今回庫内にインストールされたのは、柱に直接貼るカッティングシート、プリントアウトして掲出するサイン、ダンボールの枠を使用した看板など。都会的でありながらソリッドすぎないデザインが、物流センターにもマッチしています。ただ見栄えが良い、ということだけでなく、注意喚起などサイン本来の伝達機能が失われないよう、検証を重ねて視認性の高いカラーリングやフォントを選定しました。

ゴミ置き場のサイン。洗練されたビジュアル且つ、一目で情報がわかる機能性も担保

ジュピターショップチャンネルのロゴタイプの特徴的な「O」のデザインを庫内サインにも応用。居心地のいい環境だと思ってもらえるよう飾りすぎないシンプルで機能的なデザインでありながら、企業のアイデンティティに根ざしたストーリー性のある庫内サインが実現しています。

ジュピターショップチャンネルに向けたデザインロジック資料

武井:ロゴタイプのOと庫内サインのラインが重なるデザインになっています。私は、デザインに関しては素人なので、デザイナーから説明を受けて「ああ! なるほど!」と驚きました。会社としても、庫内としても、ビジュアルに統一感が出ますし、率直に格好良いなと思います。デザイナーともとても密にやりとりをして、何もない状態の物流センターも見学していただきました。デザインが完成してからは、デザイナー2人と私を含めた当社のスタッフで、丸3日かけて一つひとつのサインを庫内に貼りました(笑)。

実際に物流センターが稼働を始めると庫内サインのメンテナンスの必要性が発生したり、デザインを導入したがゆえの課題も見えてきました。サインに使用する素材の耐久性や、庫内のレイアウトやオペレーションの変化に伴うサインの変更など、「物流現場のメインジョブではないデザイン面の改善をサポートしていきたいですね」と西尾。しかし、意識もしないほど“普通”になっている業界の慣習を覆し、まずは導入までこぎつけたという手応えを語ります。

バケットステーションのサインは、大判印刷して柱にくくりつけた

西尾:先ほど武井さんがおっしゃっていたように、コスト重視の物流業界では、その効果がわからず定量化できないものは稟議にすらあげられないという実情があります。ウェルネスとして現場が良くなると肌で感じられていたとしても、定量化の壁が立ちはだかる。

とは言え、定量化できることだけやっていれば幸せに働けるかというと、絶対に違うと思います。なので、今回ジュピターショップチャンネルさんが庫内サインにチャレンジして下さったことは、業界全体にも意味があることだと思います。コストをかけられない物流の現場で、人のためにコストをかけて新しい取り組みをした。自分の知る限りでは世の中に誇るべき第1号案件であると思っています。

武井:庫内の環境が良くなることが、長く勤め続けていただくためのひとつの理由になると良いと思います。仮に当社の物流センターを辞めたとしても「前の物流センターにはこんなサインがあったよ」と話題にしていただけたら嬉しいです。そして、どの物流現場に行っても、デザインが当たり前になっていくと良いですね。新物流センター立ち上げのタイミングでこのような機会に巡り会うことができ、先駆けになれたのはとても嬉しいです。

 

デザインは、働く人のウェルネスを叶えるためのチャレンジ

これまでの常識が突破された今、物流業界にデザインの波が巻き起こるかもしれません。あとに続く物流業界の人たちに向けて、西尾はこう続けます。

西尾:デザインは目的を達成するための手段のひとつ。働くスタッフに対してのケアとして、働くことが楽しくなるような現場づくりが物流業界には必要です。人材不足の中でこれまでと同じスタンスで振舞っていて良いわけがないと、多くの物流人が気づいてきた。そんな中、定量化できないものに対して、武井さんが熱意を持って社内を説得してくれたことは大きな意味があると思います。今後、武井さんのように物流業界の慣習を突破する人がもっと増えてほしいです。

ダンボールを活用した看板。棚番号など知りたい情報がわかりやすく示されている

 

庫内サインにデザインを取り入れるという新たな扉を開いたジュピターショップチャンネル。武井さんはデザインの力を使った、こんな未来を思い描いているといいます。

武井:庫内に大きな壁がひとつ残されているので、頑張ったスタッフを表彰するためのデザインウォールにできたらと考えています。サインという実務的な機能を持たせたものだけでなく、よりモチベーションの上がるデザインが、物流センターにあるといいと思います。スタッフが頑張れる環境をつくっていくことにチャレンジしたいと思いますし、業界のみなさまもチャレンジしていただきたいです。

 

インタビュー・執筆・編集:飯嶋藍子(sou)
撮影:西あかり

インフォメーション

ジュピターショップチャンネル株式会社

1996年11月に日本初のショッピング専門チャンネルとしてスタート。ファッション、ビューティー、ホームグッズ、グルメなど、バイヤーが厳選した多彩な商品を24時間紹介。快適なお買い物を叶えるため、注文受付や商品出荷も自社対応。生放送ならではの臨場感と心おどるお買い物体験を届けている。

Twitter:@shopchannel
Instagram:@shopch.jp
公式サイト:https://www.shopch.jp/

武井純(たけい じゅん)※2022年3月現在

ジュピターショップチャンネル株式会社 物流本部 物流企画部 企画グループ所属。千葉県習志野市の茜浜物流センターを中心に5ヶ所にあった物流拠点を集約し、2022年4月に千葉県船橋市の三井不動産ロジスティクスパーク船橋Ⅲ内に新しい物流センターを開設。新しい物流センター立ち上げを率いた。