物流の未来を切り拓く、プロロジス×CAPESの私塾「プロロジスアカデミー」とは?
ここ数年で急速に広がるDX化の波は、物流の世界にも変化をもたらしています。省人化・省力化を叶えてくれるロボットやAIといったソリューションは、人手不足が深刻化する業界にとっての救世主と期待されましたが、実際のところ導入に踏み切ったのは一部大手のみ。多くの企業が足踏み状態です。
そんな状況に疑問を抱いた、物流不動産の所有・運営・開発のリーディング・グローバル企業であるプロロジスは、同社のパートナーでありコンサルタントを務めるCAPESと共に、物流の未来を担う人材を育成するための講座「プロロジスアカデミー」をスタート。今回は、プロロジス開発部バイスプレジデント・高橋健太さんとCAPES代表・西尾浩紀が、アカデミー開校へと至った背景や、アカデミーを通じて伝えたい想い、二人が目指す物流業界の未来について語り合いました。
人と関わることで、新しい自分を見つけられる
―プロロジスアカデミーは、高橋さんと西尾さんのお二人を中心にスタートしたそうですね。開校の背景にはどんなことがあったのでしょうか?
高橋:物流業界では慢性的な人手不足が大きな課題となっていて、プロロジスアカデミー開校の3年前である2016年当時、その解決策として注目され始めたのが、AMR(搬送ロボット)やAGV (無人搬送車)といったロボットソリューションでした。でも、実際にロボットを導入している会社は、ほんの一握りのリーディングカンパニーだけ。どの会社でも人手不足の解決が急務となっているはずなのに、なぜロボットを使わないんだろうと疑問でした。
―ロボットの導入が進まないことへの疑問が、アカデミー開校にどうつながったのでしょうか?
西尾:物流現場にAIやロボットなどを導入するには、それを活用するための高度なスキルセットが必要になります。しかし、物流業界で働く人材は、これまでお客さまのための「作業」を主としてきた人がほとんど。そんな中で急にDX化だ、ロボット導入だと言われても、どう対応していいかわからないというのが現実ですよね。自動化を進める必要がある状況なのに、それに対応できる人材が不足しているというところに、大きなギャップがあると僕は感じていたんです。
高橋:西尾さんからこの話を聞いてハッとしました。それがロボット導入の一番のボトルネックになっていたのかと。物流現場にまず必要だったのは、教育の場だったんです。
―高橋さんのモヤモヤと、西尾さんの実体験を通しての気づきがうまくマッチしたのですね。
西尾:そうですね。CAPESはもともと物流のコンサルティングサービスパートナーという立場で、プロロジスと関わってきたのですが、高橋さんからは常々、プロロジスが運営・管理する物流施設の入居者に対して、何か新しい価値を提供できないだろうかと相談をいただいていました。物流業界のこの先を共に考えたときに、プロロジスが提供する教育の場「プロロジスアカデミー」の形が浮かんだんです。
―構想を練っていくうえで、どんなことを学べる場所にしたいと考えましたか?
高橋:梱包の仕方、ピッキングの仕方、ロジカルシンキングの仕方……といった、「明日からすぐ使えます」といった教育なら、すでにやっている場所があります。プロロジスでやるならば、従来の座学ではなく、もっと高い熱量で“志”を学べる場所をつくりたかったんです。
西尾:そこで僕らがイメージしたのが「私塾」でした。5〜6人の最少人数で開催し、座学はほとんどなし。インタラクティブにディスカッションとアウトプットを繰り返す中で、これからの物流業界を担うために必要な知識を獲得してもらうことを目指しています。
視座を上げ、視野を広く。私塾で身につけるこれからの物流を変える力
―プロロジスアカデミーにはどんな人が参加されるのでしょうか?
高橋:毎回、プロロジスの施設入居者である企業にお声がけして、20代から30代の若手人材に参加いただいています。アカデミーが始まった当初は、「我々のお客さまである入居者に対して教育をするだなんて偉そうだ」と、社内でも不安の声が上がりました。ですが、そんな心配とは裏腹に『そんな機会がほしかった』と言っていただき、今では毎回受講生を送り出してくださるリピーターの会社さんもあります。
―具体的にどんなことが学べるのか教えてください。
西尾:僕が講師となり、受講生は全7回のカリキュラムを半年間かけて学びます。初回は相互理解を深めるためのオリエンテーション、その後は物流業界の課題についてディスカッションをしたり、最先端の物流施設へ見学に出かけたり、キャリアデザインを考えるワークショップも行います。最終的な目標は、自社でソリューションを導入し、活用できるようなスキルセットを身につけてもらうこと。最終回はそれを想定したプレゼンをしてもらいます。
―西尾さんが講師として最も重要視しているメッセージはどんなことでしょうか?
西尾:僕が一貫して伝えているのは、「視座を高めてほしい」「視野を広げてほしい」ということです。物流業界の中で仕事していると、自社の業務や目の前の作業に集中してしまいがちで、視座が上がりにくいんですよね。たとえば、現場では今までこういうオペレーションが当たり前だったけど、管理側から見たらそれは効率的なのかとか、丁寧に梱包することは物流側の人間にとっては大事だけど、利用者側にとってはゴミが増えるだけなんじゃないかとか。受講生には、視点を変えることの大事さを学んで、いろんな角度から物事を考えられるようになってほしいんです。
コミュニティから生まれる、新しい気づき、次世代への発想
―2022年で第4期を迎えたプロロジスアカデミーですが、今後はどんな展開を考えていますか?
高橋:受講生が物流業界にどんどん増えていくことで、アカデミーで得た学びがストックとして物流業界に積み上がっていくことが、このプロジェクトの価値だと思っているんです。アカデミーが毎期5人の受講生をとるとしたら、単純計算すると、10年で50人ですよね。たとえば、どこかが同じ数である50人を一度に集めても、僕らが10年かけて積み重ねる密度はやっぱりつくり出せないと思うんです。そう考えると、卒業生のコミュニティをどう維持していくかということが、今後極めて重要なポイントになりますね。
西尾:今年3月に、アカデミーの現役受講生と卒業生がつながれる場として、コミュニティサイト「ロジカフェ」を立ち上げました。物流業界人ならではのお悩みを相談できる掲示板や、日常のつぶやきを共有し合うSNSのような機能などがあり、ここがアカデミー生の関係醸成の場になればと思っています。仲間と共に濃密な時間を過ごすことで、同じ期の受講生は講義終わりに飲みに行くくらい関係性が深まるのですが、「ロジカフェ」によって横だけじゃなく縦のつながりも生まれたらいいなと思ってるんです。
―そうして生まれたアカデミー生のつながりが、それぞれの仕事に役立つこともあると思いますか?
高橋:大いにあると思っています。彼らは同じ物流業界にいながら、立ち位置が微妙に違う。アカデミーを通じて出会った仲間に「違うポジションから見たときに、このやり方についてどう思う?」と気楽に聞ける関係があることで、視野が広がり、自身の仕事を見直すこともあるかもしれません。気づくことができれば変えることができる。アカデミー生は、この物流業界を変える次世代のリーダーになっていく人たちだと思っています。
物流業界は自己実現できる場所。アカデミーを通じて伝えたい、物流の楽しさと広がる可能性
―アカデミーをスタートしてから、お二人が一番印象的だったのはどんなことでしょうか?
西尾:第1回目は一生忘れません。受講生との事前面談では、じつは入りたくてこの業界に入ったわけじゃないとか、希望していなかったのに配属されてしまったとか、本意でない形で物流に関わっているように感じている人も多かったんです。でも、アカデミーで同じ業界で働く仲間たちに出会い、「こういう場所を求めていた」と言ってもらえたときは本当に嬉しかったですね。
高橋:ある大手通信販売会社に勤める方の話なのですが、彼は以前、物流業界で仕事をすることに心折れそうになったことがあるというんです。というのも、いい大学を出て名の知れた企業に就職したのに、始めに配属されたのは地方の倉庫。毎日毎日、出荷作業に明け暮れる日々で、周りの同級生たちが華やかな業界でキラキラと活躍している姿を見ては、「自分は何をやっているんだろう……」と落ち込んだそうです。でも、アカデミーに参加して、物流に対して熱い思いを持っている人がいるということを知って、すごく嬉しいと言ってくれたんです。これまでそういうことを話す場所もなかったと。ああ、やって良かったなと、泣きそうになりましたね。
―プロロジスとCAPESがアカデミーを通じて共に描く、物流の未来についてお聞かせください。
高橋:やはりそう簡単には変わらない。それが現実だと思うんです。でも、プロロジスアカデミーを受講することによって、一人でも仕事に対しての思いが変わるきっかけになるのなら、すごく嬉しいです。それが業界全体を変えていく一つの力になることは間違いないですから。
西尾:「物流業界の中にいる人と外にいる人の意識を変革する」ということが、アカデミーの大きなテーマとしてあります。中の人には、「君たちがキーマンになれる、物流業界は自己実現できる場所なんだ」と言える、刺激を与えられる場所でありたいと思っていますし、外の人には物流業界の可能性を伝えたい。物流の世界はこれまで能動的に何か変えようとする人が少なかったからこそ、チャレンジしたい人にとってはチャンスがたくさん転がっている、めちゃくちゃ楽しい業界だと思うんですよ。
高橋: たとえば、Amazonは私たちの買い物体験を大きく変えましたよね。その価値の源泉にあるのは物流だと思っているんです。アカデミーでは今後、通信や金融など他の業界の方にもどんどん関わってもらいたいと考えているのですが、それは、物流業界も他の業界と同じように「世界を変える」ポテンシャルがあると知ってもらいたいから。これまでクローズドだった物流の世界に、どんどん新しい風を取り入れていくことができたらいいなと考えています。
―お話を伺って、物流が私たちの生活に深く関わっているということを再認識しました。最後に、プロロジスがCAPESに期待することをお聞かせいただけますか?
高橋:西尾代表はいつも我々の立場をよく理解し、我々以上にプロロジスの業界における立ち位置やブランディングを気に掛けてくれています。この場を借りて改めて御礼を言いたいと思います。
さて、今、アカデミーとは別に、一般の人たちと物流業界の交差点のような場所がつくれたらと考えています。新しいことを始めるには、いつも柔軟な発想が必要になると思っているので、CAPESさんのような“ちょっと変な人たち”との触れ合いがすごく重要なんです(笑)。我々プロロジスはリーディングカンパニーだからこそ少しお堅い部分があります。CAPESさんは、我々と外の世界をつないでくれるパートナー。いつも新しい景色を見せてくれます。
西尾:そう言っていただき、すごく嬉しいです。これからも物流業界の未来を共に考えていきましょう!
インタビュー・執筆:秦レンナ
編集:石澤萌(sou)
撮影:テラウチギョウ
プロロジス
米・カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置く物流不動産開発のグローバルリーディング・カンパニー。賃貸用の先進的物流施設開発のパイオニアとして培った専門性やノウハウを活かし、物流不動産の所有・運営・開発で世界に展開する。その実績は世界でも国内でもトップシェアを誇る。
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高橋健太(たかはし けんた)
プロロジス バイスプレジデント 開発部長 物流コンサルティングチーム。2008年プロロジス入社。物流施設のリーシング業務に従事し、多数の新規物流施設プロジェクトに携わる。「プロロジスパーク千葉ニュータウン」では、アパレルECフルフィルメントのアッカ・インターナショナルとともにGeek+社製の物流AIロボット稼働を主導したほか、直近ではプロロジスの新ブランドである都市型物流施設「プロロジスアーバン」の立ち上げに従事。現在はコンサルティングサービスの提供をはじめ、ベンチャー企業への出資や異業種との協業により、顧客価値の最大化に向けた取り組みを推進している。