やなのうなぎ観光荘、改革の一歩。属人化の極みだった物流をCAPESとどう変えた?
創業70年を迎える長野県岡谷市の老舗うなぎ店・やなのうなぎ観光荘。関東風の背開きにして蒸さずにじっくり炭火で焼くうなぎは岡谷市内外の人々から長年愛されてきました。老舗でありながら、うなぎの宇宙食化に挑戦するなど新たな取り組みも積極的に行っている観光荘ですが、じつは通販部門がかなり属人化していたり、それまで扱っていた冷蔵商品を冷凍商品に切り替えたりと、オペレーションを見直す必要に迫られていました。
そこで今回は、有限会社観光荘の代表取締役である宮澤健さん、代表の姉でありECサイトや通販の業務をたった一人で担っていた伊藤由紀子さん、代表の妻で広報やパッケージデザインなどを手掛ける宮澤玲さんにご登場いただきインタビューを実施。CAPESのコンサルティングを受けて物流領域にどのような変化があったか、老舗だからこそ抱えがちな物流のお悩みを解決する道筋についてお伺いしました。
属人化の極みだった通販事業
―観光荘の物流はどのような状況だったのでしょうか?
伊藤:そもそも通販事業がスタートしたのは25年ほど前。私がパソコンを触るのが好きだったので、母から「大学卒業後はすぐに店に入ってほしい。パソコンを触るのが好きなら通販の受注処理をお願いできる?」と言われて通販業務を担当することになりました。
―言われたから始めてみよう、という流れだったのですね。
伊藤:そうですね。最初は資材が散らかっているようなキッチンの隅で梱包作業をして、在庫も都度つくっていたのでエラーばかり。当時はホームページの運用を業者さんにお願いしていて、その業者さんに注文が入ったら店にFAXが届くという流れだったので、何日かラグがあってから注文がわかり、慌てて発送の準備をしていました。当然マニュアルはなく、今振り返るとよくやっていたなと思います。
宮澤健(以下、代表):属人化の極みでしたね。土用の丑の日の前に全然商品がないことに気づいて、仕事が終わったあとに通販用のうなぎを焼いていました。ここ数年の話だと、通販をスケールさせようということでECサイトのカートシステムをリニューアルしたんです。
その直後にコロナ禍になったことがきっかけで、通販の売り上げが3倍ほどに膨れ上がりました。そこで従来のままだと在庫管理や受注管理が非常に難しいと感じるようになったんです。
―お客さんが増えたことで、応えなければいけない期待も大きくなりますよね。
代表:そうですね。在庫管理や受注管理に悩む一方で、お客様からは「長期保存したい」「高品質を保ってほしい」という声が上がっていたので、今年の初めにそれまで扱えなかった冷凍食品を扱えるように工場をアップデートしたんです。
冷蔵から冷凍にオペレーションが切り替わることと、冷凍商品の取り扱いを繁忙期である7〜8月に滞りなくスタートさせたいという思いもありました。それを叶えるためにも属人化していた従来の流れを改善したいと思い、CAPESさんに相談させていただきました。
マニュアル作成によって「困った、どうしよう」が一気に解決
―冷凍のオペレーションに切り替えることを出発点に、CAPESとしては「業務の標準化」、次に「事業拡張への対応」、最後に「事業リスクへの対策」を考えていくという3フェーズを提案させていただきました。まず「業務の標準化」として、受注から包装、梱包、出荷までのマニュアルを作成しましたが、現場にはどのような変化がありましたか?
伊藤:マニュアルをつくるにあたってCAPESさんからはあくまで第三者目線で徹底的に「なんでこれをやっているの?」と従来の通販業務の流れを一つ一つ洗い出してもらいました。そこから一般的に効率の良い方法をあてはめたうえで、私のやりやすい方法を落とし込み、冷蔵・冷凍問わずにすべてのベースとなるようなマニュアルを作成いただきました。
私はなんでも自分で最後まで確認しないと不安な性格で、人に任せるのが苦手なんです。だから、ずっと一人でやってしまっていたのですが、マニュアルができたことによって他の人に任せられることが少しずつ増えてきて、私がいなくても大丈夫な仕組みができつつあるなと感じます。
代表:まずは目線合わせをして、現状における最適化をしていただき、標準化に向かっていくという感じでしたね。コンサルティングをしていただくうえで、私たちが長らく培ってきたスタンスや現状をすぐに理解してご提案をしてくれました。
伊藤:まさにそうです。私が平日14時半くらいまでの時短勤務で働いているので、その中でどれだけ効率よくできるかも考えてくださって。出荷に関しても、集荷の方が夕方に来るので私がいなくても荷物を引き渡すにはどうしたらいいかとか、今まで「困った、どうしよう」と思っていたこと、無理やりやっていたことが一気に解決できました。
物流を見直したことでパッケージも機能的に美しく変化
―CAPESとプロジェクトを進めていくうえで印象的だったことはありますか?
伊藤:「こんなことも聞いていいのかな?」という小さい相談ですら、すごい速さでレスポンスをいただけたことに驚きました。決して一方的ではないところも印象に残っています。「このシステムを使ってください」「ここはこうしてください」という感じではなく、私の希望に沿っていろいろな方法を考えてくれました。仲間のような目線で通販業務がどうやったらよくなるのかを一緒に考えてくださって、非常に心強かったです。
「正解だと思ってやってきていたことが全然違った!」「もっとやりやすい方法があったんだ!」と、目から鱗なことが何回もあって。行き詰まるまではいかないけれど、どうしたらいいのかわからないと悩んだまま進んでいたことが少しずつ解決してきて、これからの自分の仕事が楽しみになったんです。どうしたらもっとよくできるか考えようというふうに私の仕事に対する姿勢も変わりました。
宮澤玲:私は前職がデザイナーだったので、通販のうなぎのパッケージデザインをやっているのですが、衛生面を考慮することはもちろん、冷蔵・冷凍という負荷がかかる状態でパッケージをお客様に届けないといけないという課題があって。冷蔵・冷凍って送料がすごくかかるので、パッケージをコンパクトにすることもすごく大事なんです。だからこそ素材などにとても気を遣うのですが、過去の事例をCAPESさんに教えていただいたことが、冷凍のパッケージをつくる際にとても役立ちました。
マニュアルを参考にしつつ、「この箱にすればゴムをかける手間が減らせるかも」「箱に箔押しをしちゃえばシールが剥がれる心配もないよね」といった効率の良さはもちろん、そのうえで美しくてうなぎのおいしさが伝わるようなデザインを見直すきっかけになりました。
改革が難しい老舗の中小企業が課題に気づくきっかけに
―CAPESのコンサルティングを受けて、事業全体にはどのような変化がありましたか?
代表:店舗にしても通販にしても予想以上にスケールしていくものが増えてしまっていた中で、「業務の標準化」「事業拡張への対応」「事業リスクへの対策」という3つのフェーズにわけて考えてくださったのがとても良かったです。
「業務の標準化」のあとも事業サポートというかたちで継続してコンサルティングをしていただいますが、そのなかでBtoBの取引が少しずつ増えてきそうだなという流れになってきました。また、ECモールやふるさと納税など販売チャネルも増えてきて、さっそく「事業拡張への対応」のフェーズに入りつつあるなと思います。
―そうなると次は「事業リスクへの対策」を考える段階になってきたということですよね。
代表:そうですね。コロナ禍で通販が跳ねたとき、在庫がない期間が長く続いて機会損失をしてしまったことがありました。従来の商品は属人化していてもまだなんとかなったのですが、新しい企画を立ち上げたときに機動力がなくて困ったこともありました。
お客様にお届けする数が増えると、どうしても物流の課題にぶつかります。しかも、うなぎの資源を1年中確保することはとても難しく、過剰在庫や在庫不足も解消しなければいけません。そのバランスをうまく取って機会損失をせずにどう仕掛けていくかが今後の課題だと感じています。
―「業務の標準化」によって、今あるものを活用しながら、成長に合わせて新しいものを肉付けしやすい土台ができたのではないかと思います。
代表:そうですね。店舗でも通販でもスケールすると必ずエラーが起きるので、おっしゃるとおりまずは土台を固めることにご協力いただきました。でも土台ばかり注目していても固まりすぎちゃうので、ちょっとずつスケールさせる仕掛けをつくっていただいているという感覚です。現場に寄り添って伴走いただけるのは本当に心強く、物流以外の領域でもコンサルをしてほしいくらいです(笑)。
我々のように同族でやっている老舗の中小企業ほど改革が難しいと思うんですよね。そんな企業にとって、第三者視点で寄り添って提案していただけるCAPESさんのような存在は非常にありがたいです。我々の事例が、何が課題かさえも気づいていない方々が課題に気づくきっかけになればいいなと思っています。
インタビュー・執筆・編集:飯嶋藍子(sou)
撮影:N A ï V E
やなのうなぎ観光荘(やなのうなぎかんこうそう)
岡谷本店
住所:長野県岡谷市川岸東5-18-14
営業時間:11:00〜14:00、17:00〜20:00
定休日:木曜(他休日あり)
電話番号:0266-22-2041
松本店
住所:長野県松本市渚2-2-5
営業時間:11:00〜14:00、17:00〜20:00
定休日:木曜(他休日あり)
電話番号:0263-31-6963
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